FC2ブログ

星鳩の巣箱

書いたもの作ったもの雑多格納する場所です。

by
  • Comment:0

目次と各作品へのリンク

◆◆◆◆注意書きと目次◆◆◆◆


いらっしゃいませ。

こちらは管理人ぽっころろの運営する非公式かつ個人的なファンサイトであり、著作権侵害を目的とするものではありません。

また原作者、出版社等とも一切関係はありませんので問い合わせなどしないようお願いします。

何らかの勧告があった際には、速やかに対処させていただく所存です。まずは下記にメールを下さい。

無いとは思いますが、無断転載はしないで下さい。





当ブログは「女性向け」と表記される、男性同士の恋愛を含む作品を扱っております。

上記内容の閲覧を望まれない方、意味の判らない方は、入室をお控え下さい。

ご了承いただけた方は、下記リンクよりご入場下さい。



・二次創作一覧記事はこちら

・cwのシナリオ一覧はこちら(※ただいま準備中)



メッセージなどがあれば下記のメアドの☆を@にしてお送り下さい。

fafunieal377☆gmail.com




リンクなどは↓のバーナーをお使いください。リンクフリーです。

バーナー
サイト:http://fafunieal370.blog.fc2.com/
バナー:https://www.fastpic.jp/images.php?file=0040567152.png


何か匿名で伝えたいことがあれば、拍手からお願いします。
↓↓

web拍手 by FC2




by
  • Comment:0

二次創作一覧

こちら二次創作作品の一覧へのリンクです。
雑多書いてるので、ジャンルごとに作品一覧記事へのリンクです。リンク飛ばしてばっかですみません::

上に行くほど新しいです。



↑NEW

◆undertaleの作品一覧はこちら(※現在更新中)
……主にズニキ受けでパピサンやAU含めて雑多カプです。
18/9/3 作品1点up

◆ルパン三世の作品一覧はこちら
……ル次、銭ルばっかりです。

◆Overlordの作品一覧はこちら(※現在更新中)
……コキュデミ(コキュートス×デミウルゴス)、パンアイ
18/11/7 作品1点up

◆アメコミの作品一覧はこちら
……ジャトニ、チャエリ、クラブル、ケブデプ
19/8/11 チャエリ1点up

◆Hunter×Hunterの作品一覧はこちら
……クロロ受け中心

◆NARUTOの作品一覧はこちら
……鮫イタ、角飛など

◆その他の作品一覧はこちら(現在整理中)
……↑以外の単発作品


~遥か昔の作品とか~


◆名探偵コナン……KID受け
◆07-GHOST……アヤナミ受け
◆ギャグ漫画日和……芭曽
こちらのブログです。


←注意書き・目次に戻る



by
  • Comment:0

ミュータントオークション③

①→こちら
②→こちら
③↓


 セレブロを置いてチャールズは大きく息を吐きだした。今でも心臓が跳ね回っている。セレブロの出力を上げすぎた負荷だけが原因ではなかった。ハンクの手がいつの間にか肩に乗っていることに気付く。
「チャールズ、大丈夫?」
 チャールズはなんとか頷いた。首を動かすと、ぐにゃりと視界が歪んだ。頭痛を感じて額を押える。まだ本調子には戻っていない事を失念していた。
「……場所は分かった。けれど今からじゃ間に合わない」
「間に合わないって?」
「エリックが移動するらしい。あの子の兄が一緒かどうかは分からない。今しかない」
「駄目だ、チャールズ。今のでも危険だったのに」
「わかってるけど……明日だ。明日までしかない」
「もう11時だよ」
「ハンク、この座標の建物を衛星から調べて。見取り図を作って欲しい」
「わかった」
 それ以上は何も言わずハンクは真っ直ぐ研究室へと向かった。息を落ち着かせてから、もう一度セレブロを接続する。レイブンを見つけてコンタクトを取るだけだ。
 レイブンはついさっき見た姿とはまた別の警備員の姿をしていた。廊下を一目散に走っている。ただならぬ様子に不吉な予感がした。
「レイブン? 大丈夫か?」
『見つかったの』
「なんだって?」
 思わず焦った声を上げてしまう。
『私じゃなくて、目的のミュータントよ』
 くすりと彼女が耳元で笑ったような錯覚がした。悪戯が成功した時のような楽しそうな声の響きにほっとする。
『ここのどこかにいるって聞き出せたの』
「安心したよ、レイブン」
『エリックは?』
「閉じ込められてる。鍵を探さないといけない」
『鍵?』
「能力を封じる装置の鍵だ」
『……そんなものないわ』
 その言葉の意味はすぐには理解できなかった。
「無いって? エリックは鍵を探せって言ってたけど」
『エリックがそう言ったの? ……そう』
 レイブンは廊下を曲がって周囲に人がいないことを確認するとまた別の男性へと姿を変えた。
『馬鹿な人。いつも金属だからって無理矢理抉じ開けてるから考えた事もなかったのね』
「どうしたら外せる?」
『普通は外せないわ。外れる条件は一つだけ。ミュータントでなくなった時。つまり死んだ時』
 時が止まったような気がした。
「……冗談だよね? 司会も外せるって言ってたじゃないか」
『装置の製造元に行って面倒な手続きを踏んだらの話よ。でも、もう一つだけ方法があるわ。ミュータントじゃなくなればいいの。ミュータント因子を抑制する薬がある』
「政府が開発しようとしてるって話は聞いたことがある。だけど、そんなもの……」
『チャールズ、私はずっとミュータントの解放運動をしてきたのよ』
「流石だよレイヴン」
 男性の姿に化けた彼女が嬉しそうに笑う。顔こそ違うがその笑い方は彼女のものだ。
『問題は地下への行き方だけど。チャールズ、あなたが見たものを教えて』
視界に入ったハンクの姿にチャールズは顔を上げた。渡された図面に目を落とす。
「ありがと、ハンク。レイブン、今から僕の見たものと屋敷の見取り図を送るよ」
「私はあの子の兄を助けに行くわ。あなたはエリックをお願い」
 チャールズはハンクに目を遣った。
「始めよう、ハンク」
「セレブロを壊さないでくれよ」
 そう言いつつもハンクが心配そうな顔で見ているのはチャールズの方だ。
「努力するよ」

 地下でチャールズがレイブンと合流した時には既に警報が鳴り響いていた。レイブンは鉢合わせたチャールズに銃を向けた。同じく警備員の体を借りているチャールズは両手を上げた。
「待って、レイブン。僕だ」
「チャールズ。探したわ」
 レイブンはチャールズの手にアンプルと注射器を押し付けた。
「何があった?」
「バレそうになったから、のめしたの」
 のめしたなんて言葉は妹の口から聞きたくなかった。けたたましく辺りを震わすサイレンの中でもレイブンは落ち着いていた。慣れているのだと知りたくない事実を知ってしまう。
「それとこれ」
 何か機械のようなものを渡される。見覚えがある。エリックの首にあった装置と同じだ。
「偽物よ。あなたが協力を断ったときの為に作ってたの」
「え?」
「彼が本物を選んだのは、あなたがいるからよ。馬鹿よね、私は止めたのに。でも結果としては正解だった。ミュータント能力に反応するセンサーがあったの」
 言葉を失うチャールズをレイブンが気にした様子はなかった。
「行って。もう時間がないわ」
「レイブン、気を付けて」
「あなたもね」
 レイブンと別れてチャールズは階段を下りた。エリックがいる部屋への道は既に読んである。警報のおかげか、チャールズの移動を不審に思う者は多くなかった。テレパスで周囲の意識を逸らしつつ、先を急ぐ。目的の部屋の前には銃を持った男性が二人立っていた。恐らくはこの部屋の用心棒だろう。
「ここは僕に任せて。君たちは上に」
 こめかみに指を当てて伝える。彼らが操り人形のように真っ直ぐ上の階段へと向かっていくのを見送り、部屋の鍵を解錠して中に入る。部屋の中は先ほど見た通り、高級な調度品で揃えられていた。ついさっきチャールズが操った男が扉の側に立っていた。恐らく監視役なのだろう。入ってきたチャールズを見て銃を上げる。
「君は眠ってて」
 男が崩れ落ちる。チャールズは部屋を見回した。寝台の上にエリックはいた。倒れた男とチャールズを見ている。彼は最後に見た時と同じ服装で横たわっていた。
「チャールズ?」
 彼の元に走り寄ろうとしたチャールズは、背後に誰かがいるのを感じた。殆ど反射的に先ほどの男にしたものと同じテレパスの干渉を向けていた。バタリと人が倒れる音がする。だが同時に何かに頭を殴られたような強烈な痛みを感じた。視界が歪んで、浮遊感がした。
「チャールズ!」
 その声がエリックのものかハンクのものか判然としなかった。寝台から降りて駆け寄るエリックの顔と、肩を掴んで揺さぶるハンクの顔が二重に見える。投げるようにアンプルと装置を床に転がす。それが精一杯だった。伝えなければいけない事は沢山あった。だがあまりにも残された時間は短かった。
「頼んだ、エリック」
 次の瞬間にはチャールズはウェストチェスターの学園に引き戻されていた。顔を覗き込んでくるハンクの顔は霞がかっていた。セレブロを構成する周囲の銀色の空間が灼熱のような真っ赤に染まっている。彼の手にセレブロの端末が握られている事に気付く。先程までチャールズが被っていたものだ。
「チャールズ! 何したの!?」
「大丈夫だから……」
 チャールズはハンクの持つ端末に向かって手を伸ばした。だがあと少しで触れるというところで意識が途絶えた。

次に目が覚めた時、チャールズはメディカルルームにいた。額についた電極を外して身体を起こす。隣にいるハンクは苦い顔でモニターを見ていた。
「何があったの?」
「力を使いすぎたみたいだ」
 頭を押える。平衡感覚が覚束なかった。床が揺れているような奇妙な感覚がある。
「無理しないでって言ったのに。酷い顔してるよ」
「僕はどのくらい寝ていた?」
「15分くらいかな」
 ぎょっとする。まさか昏倒することになるとは思いもしなかった。
「大変だ、ハンク。こんなことをしてる場合じゃない」
「こんなことって。あのまま繋ぎ続けてたら死ぬかもしれなかったんだよ!」
「すまない。……車椅子を持ってきてほしい」
 ハンクは口を引き結んでチャールズを睨みつけた。無言で部屋を出て行った彼は、それでも次に戻ってきた時チャールズの望んだものを持ってきてくれた。
 セレブロに接続して見えた光景は想像したものより遥かに良くなかった。幸い彼らは地下にはもういなかった。コンタクトが取りやすかったはそのためだろう。ホールのような広けた場所で、少年を連れている。ただ彼らの周囲を銃口が取り囲んでいた。武装したその数は二十人以上いる。
「レイブン、エリック」
『チャールズか』
 こんな時でもエリックの声は平坦だ。
『お前を待っていた』
「悪いが余り力になれない。彼らの動きを少しの間止めるくらいなら、もしかすると……」
「膝を付け!」
 二人と少年が膝を折る。彼らを囲む銃口の輪が狭まっていく。
「手を地面に置け!」
 言われた通り従う三人の様子にチャールズは奥歯を噛んだ。もしも10年のブランクが無ければ、もっとうまくやれたはずだ。車椅子の肘掛けを握りしめる。
「今から彼らの動きを止める。少ししか持たないかもしれないけど、その間に逃げてくれ」
『その必要はない、チャールズ』
 地鳴りがした。あたかも地面全体が震えているような錯覚に陥る。いや実際に揺れている。周囲の武装した警備員がよろめく。次の瞬間、轟音と共にフロア全体に罅が入り鉄骨が地面を突き破った。何本もの鉄骨が天井まで貫く。その中でゆらりと立ち上がる一人の人影があった。
「エリック!」
 真っ直ぐ宙に浮かび上がったその姿に向かって銃弾が降り注ぐ。だがそれらはエリックへは辿り着けず直前で速度を失うと地面に吸い込まれていく。持ち上げたエリックの手が握り込まれたのが合図だった。天井や壁、床の至る所に夥しい数の罅が走る。
「チャールズ、お前の望みを叶えてやる」
 声音は睦言のように甘く、そして滴るほどの毒を含んでいた。背筋に寒気に似た震えが走る。彼が何をしようとしているのか厭というほど分かってしまった。
 地面が震え、天井が裂ける。一面に瓦礫が降り注ぐ。崩壊する世界の中、青空と朝日を背に彼は浮かんでいた。眩しい光の中で彼は無慈悲なまでに美しく悍ましかった。破裂音と青い霧、それを最後にチャールズの視界はかつて豪邸だったものに埋め尽くされた。
「くそっ」
 セレブロを置いて、チャールズは握り拳を肘掛に叩きつけた。こうなると想定出来たのに止めなかった自分が許せなかった。他に選択肢が無かったとしてもだ。どっと疲労感が押し寄せて来る。
「レイブンは!?」
「作戦は成功したよ。……屋敷は全壊したけど」
「良かった……」
 良かっただって? 何人が犠牲になったかも分からないのに? チャールズは思ったが口に出すのも億劫だった。瞼を開けているのもやっとだ。そう言えば今は何時なのだろう。
「僕は部屋に戻る。ハンクも休んだ方がいいよ」
 沈んだ声でそれだけ言ってチャールズはセレブロを去った。

 それ以来、エリックの姿をチャールズは見ていない。あの一件から数日後、少女の兄を連れて来たのはレイブンとあの青い肌の青年だった。ミュータントの少女は兄との再会を喜び、二人は学園の新たな一員となった。そしてオークションに売られたミュータントを特定し、家族の元に返すために奔走する日常が戻ってくる。話はそう締めくくられるべきだ。
 だが実際はそうではなかった。
「一体どの面を下げてここに来たんだい? 友よ」
 チャールズは声音だけは優しく問いかけた。そうすることが却って苛立ちや怒りを表現するのに適していると知っているからだ。
 実際はというと、レイブンとあの青い肌の青年だけではなくエリックもまたこの学園に戻ってきたのだった。それ故、現在チャールズは自室に招き入れた友人を冷たく見据えていた。引き留める間もなく去ってしまったレイブンと違い、話があると告げれば彼は大人しくついてきたのだ。彼もレイブンと同じように去ってくれればこんな態度は取らずに済んだのだが、そもそもわざわざ戻ってきたことを考えると彼にも何かチャールズに対する用があるのだろう。それをふまえて冒頭の質問である。
「お前が何に腹を立てているのかは分からないが。協力を求めたのに、礼も言わないで去るような事を俺はしない」
「お陰で犯罪の片棒を担がされた気分だよ」
「犯罪? なんのだ?」
 まるでわからないと言いたげな顔で首を傾げる。流石国際指名手配犯ともなると、法律など些細なものなのだろう。
「地下オークションに参加した、君を競り落とした、更に君をまた転売した」
「俺は気にしてない」
「悪いけどこれは親告罪じゃないんだ。それにしまいには殺人までもだ」
「チャールズ……お前いつの間にそんなことをしたんだ?」
 驚いたようにエリックがチャールズを見る。チャールズは思わず声を荒げた。
「僕じゃない。君がだよ!」
「……あの崩壊では誰も死んでない」
 信じがたい話だった。だがエリックが嘘をつくとも考えられない。
「だとしても、それはただの偶然だろう。君は彼らが死んでもいいと思っていた」
 事実がどうだったかは知らない。もしかするとあの倒壊の中で誰も死ななかったというのは本当に奇跡なのかもしれないし、もしくは奇跡ではない何か、つまるところ目の前の彼が介入した結果なのかもしれない。それは大差ないのだ。彼が今黙り込んだ事こそが答えなのだから。真実がどうであれ、否定さえしてくれたならチャールズは彼を赦す為の理由が得られるというのに。
「君の装置を取るべきじゃなかった」
 エリックの目がギラリと鋭く光った。彼はチャールズの前まで早足で歩いてくると屈み何かを差し出した。その手にはあの能力抑制装置が乗っている。
「なら、付け直すといい」
 耳を疑った。自分が何を言っているか分かっているのだろうか。彼の正気を疑う。チャールズは平静を装いつつ笑った。引き攣った笑みになっている自覚はあった。
「偽物だろう。悪趣味だ」
「偽物だと思うなら、お前がつけてみるか?」
 エリックの目には獰猛な光が灯っていた。彼のペースに乗せられてはいけない。これは先ほどのチャールズの問いと同じ類だ。仕返しのつもりなのだろう。事実がどちらなのかこの際重要ではない。
「生憎僕にそんな趣味はなくてね」
「お前は真贋の区別の仕方も分からずに俺にこれを届けたのか?」
 呆れたと言わんばかりに溜息をついて彼が装置を手の中で転がす。
「これは本物だよ、チャールズ」
 流されまいと決めていたのに、視線が彼の手の中の装置に向いてしまうのを止められなかった。今度こそ彼は正気じゃないのかもしれない。彼は装置をチャールズに差し出したままだ。手を伸ばせばすぐに取れる。そして彼は手の届く距離にいる。本当にその手から取り上げて脅かしたらどうなるだろう。だがそれでも彼はきっと逃げはしない。端から勝ち目の無い勝負だった。
「尚更、悪趣味だ。もうあの薬はないんだぞ」
「そしたら、お前が次の“飼い主”になってくれるんだろう」
 その時感じた憤りは何と表現すればいいのか分からなかった。あんな非道な人間と同列に表現された事に対してか、それとも彼が下劣な表現を使って彼と自分の関係を辱めたことに対してか、それとも今でも彼に対する感情を埋葬しきれずにいる事を見抜かれ弄ばれた事に対してか、全てがない交ぜになって区別がつかなかった。唸るように吐き捨てる。
「いい加減にしろエリック」
「これは本物だが、壊れていないとは言ってない」
 嵌められた。チャールズはエリックを睨みつけた。
「僕の忍耐力を試しに来たのか」
「チャールズ、俺はテレパスじゃない。こうでもしないとお前の気持ちなど分からない。お前は素直じゃない」
 エリックは悲しげに目を伏せた。
「お前の言葉に一つに振り回される俺が憐れだとは思わないか」
「僕が君を振り回してるだって? 逆だろう」
 あのオークションだってそうだ。エリックはもう終わった事として何の感情も残していない。だがチャールズはそうではない。彼のあんな姿を目にした観客全ての記憶を書き換えたい衝動は何とか抑え込んだが、それでもあの一連の出来事はここ数年の中でも最も不愉快な記憶に分類される。一番許せなかったのは、今でも、そしてあんな状況の彼に対してさえも欲を抱いてしまう自分がいることだ。全て終わった事だと何度も自分に言い聞かせているのにこれだ。
 だが、哀しい事にエリックには自覚が無い。その証拠にチャールズの言葉に不思議そうな顔をしている。チャールズが彼を見ていると今でも胸が苦しくなることを、彼は想像すら出来ないのだろう。
「この話はやめよう。平行線だ。つまり君は僕に礼を言いに来たわけだね。どういたしまして。だがもう二度と巻き込まないでくれ。話は終わりだ」
エリックは沈黙した。わざわざ無礼な言い方を選んだというのに、彼の足は扉の方へ向かおうとしない。彼のプライドは決して低くない筈だ。はっきりと出ていけと言わなければいけないのだろうか。チャールズは言葉を探した。正直に言うと言いたくはなかった。だが、言わなければいけない。言えなくなってしまう前に。
「それは建前だ。本当は……」
 エリックの言葉は珍しく歯切れが悪かった。言うかどうか迷っている最中に、うっかり言葉にしてしまったかのようだ。チャールズは喉まで出かかった言葉を呑み込み、彼を待つ事にした。
「お前が部屋で倒れたのを見て……、いやお前ではなく別の男だったが。お前に何かあったのではないかと……」
 チャールズを見るエリックの目は友人に向ける物以上の何かを孕んでいた。それはかつてチャールズが独占した物で、ある日を境に手放してしまったものだ。今でも喉から手が出るほどに焦がれている。チャールズは目を背けた。
「平気だよ」
 頼むからもう何も言わずに立ち去ってくれ。チャールズはそんな事を願った。車椅子のチャールズと視線を合わせるために屈んでいる彼の視線を痛い程感じながらも、見返す事は出来なかった。苦し紛れに適当な言葉を探す。
「君だって傷だらけになってたじゃないか」
「大したことは無い。目が覚めた時にガラスケースに入ってた時は驚いたがな」
 やはり本当に演技ではなかったのだ。一つを知ってしまうと彼に問い詰めたい事が次々と浮かんでくる。
「そうだ。その話だ。一体君は何を考えてるんだ! レイブンから聞いたぞ。元々の計画ではその装置だって初めから偽物とすり替える予定だったんだろう。僕がいるからってあまりにもリスキーだ!」
「だが、お前がいたからうまくいった」
「結果論だ。そもそも君はいつもあんな危ない事をしているのか? ミュータントを救うためとはいえ……」
「普段なら他の方法を選ぶ」
「あのミュータントが特別だった?」
「いいや、……ああ。そうだ」
 エリックは眉を下げて困ったような顔をした。
「お前にはあれが、少女に見えたらしいな」
「君にはどう見えたんだい?」
 エリックはこめかみに指を当てた。その仕草にドキリとする。
「読んでくれないか?」
「君の事は読まないと決めてる」
「言葉にしづらい」
 断る事はいくらでも出来た。だがチャールズは好奇心に負けた。彼が特別だと思う理由がなんなのか知りたかった。こめかみに手を触れる。彼の記憶が奔流のように流れ込んでくる。その中で今回の件の発端となった学長室の記憶を見つけ出す。ハンクに手を引かれ、部屋を出ていくミュータントは、ありふれた少年の姿をしていた。だだ一つ彼の左腕に数字が刺青されていることを除いて。
 チャールズはガツンを頭を殴られたような衝撃を感じた。
「だから、君は……」
「お前が思っているほど崇高じゃないだろう」
 エリックが笑う。何故彼がこんな記憶を見せてくれたのか分からなかった。
「レイブンにも言っていない。お前だけだ」
「君はどうしてそういう言い方を……」
 一体何を考えているのか。今となっては止める理由の無くなったテレパスで彼の意識を読む。彼を読まないと決めたのは、彼が監獄で過ごした日々を見たくなかったからだ。だがそんな決意も長くもたなかった。
 彼の脳内では、彼は照明の眩しい壇上にいた。視界一面に人の顔が並んでいる。だが彼の意識はその中のたった一人に向いていた。壇上の近くにいるその男は車椅子に乗っているチャールズだ。にやつく人々の中で一人とびきり険しい顔をしている。ぐっと眉を寄せ、深刻な問題にでも直面したような顔で一時も目を離さずこちらを睨んでいる。こんな顔をしていた自覚は無かった。
「どうしてそんな記憶を思い出してる?」
「怒ったお前はセクシーだと思って」
 彼がいつまでも立ち去ろうとしない理由がようやくわかった。喜べばいいのか怒ればいいのかわからない。
「君の為に腹を立てていた訳じゃない。ミュータントに対する全般的な非人道的扱いに対してだ」
「そうだろうとも」
 彼の声は柔らかかった。今度こそきっと、話は終わりだと告げれば彼はこの部屋から立ち去るだろう。そんな確信があった。だがもしも、チャールズが手を差し伸べたなら彼はきっと。
「そんなお前だから愛してるんだ」
 チャールズが焦がれ続けたものを、チャールズには決して与えられないものを差し出して彼が首を傾げる。彼は明日には振り返りもせず去っていくだろう。忘れられない記憶ばかりを残して、平気な顔をしてまた自分の行きたいところへ行くのだ。そんな事は厭というほどわかっている。今までだってそうだった。
 だからせめて、奪う側になろうとチャールズは決めたのだ。








→④(8月中旬くらい)

次からR-18になると思います。
拍手コメントありがとうございます!励みになります!!

アメコミ創作物一覧
by
  • Comment:0

ミュータントオークション②

①→こちら
②↓






観客が沸いた。一体何を意図してそんな事をしているのかチャールズには分からなかった。もしもチャールズとエリックのかつての関係を把握していて、チャールズの動揺を誘うためだというのなら、これ以上ないほど有効な手であると認めざる得ない。だがそうではないだろう。男の手は執拗に黒いインナーの上から胸を揉んでいた。エリックの目には嫌悪感がありありと浮かんでいる。あんな冷たい目でチャールズを見た事は無かったので、彼があんな目をするなんて知りもしなかった。いつだってチャールズが触れる時にはあの冷涼な目には確かな熱が灯っていた。男が顎を掴んで無理矢理エリックをチャールズの方に向かせる。それでもエリックはかたくなにチャールズの方を見ようとしなかった。見られたくないのだろう。その意思を尊重してチャールズも目を背ける。
チャールズはこめかみに手を当てたまま、何とか集中力を搔き集めて電話の内容に意識を向ける。彼らの話は想定外の方向へと舵取りし始めていた。最悪の場合、テレパスで操って更に入札させることも考えていたが、その必要もなさそうだ。
「では最高入札者にサービスをしましょうか」
 これ以上何をする気だ。不穏な言葉にチャールズが顔をしかめると、黒服の男らがエリックを立たせた。水槽の壁が取り除かれ、ステージへと下ろされる。そこで初めて親友の両手が後ろ手に縛られていることと、足に拘束具が嵌められている事をチャールズは知った。なんてことをするのだろう。彼の人間不信が益々悪化しそうだ。苛立ちを感じるチャールズの前でエリックは拘束具につけられた鎖を引かれて歩くことを強制されていた。どこに連れて行くつもりかとチャールズが青筋を立てていると、チャールズの目の前まで導いて黒服の男は足を止める。ステージの上とはいえ、手を伸ばせば届く距離だ。
「どうぞ、お好きになさってください」
 その言葉が自分に向けられたものだと、チャールズは遅れて気付く。最高入札者とはチャールズの事だ。好きにしろと言われても困る。動かないチャールズに焦れたように、黒服の男はその場にエリックの膝をつかせると、再びその身体をまさぐり始めた。エリックは息一つ乱さず不快そうにしているだけだ。その手が彼の足の間に伸びるのが見えた時、チャールズは思わず声を上げていた。
「待って」
 チャールズの制止の声を、どう受け取ったのか黒服の男は笑みを浮かべて引き下がった。チャールズは自分の発した言葉に後悔した。これではまるで煽られて乗せられたかのようだ。司会も、観客も誰もが期待しているのを感じる。彼らは観客の一人がこの悪趣味な余興に参加する様を見たいのだ。チャールズはこめかみに当てていた指を下した。会場から出て携帯で連絡する彼らの話はまとまりかけていた。そして、それらの情報からチャールズがすべきことは時間稼ぎだった。彼らが戻ってきて宣言するまでに与えられる彼の苦痛と恥辱が少しでも減ればいい。
 チャールズは出来る限り他意の無い触れ方で彼の肩に触れた。他意の無いつもりだった。だが、先ほどまで何の反応もしなかったエリックの身体がビクリと跳ねた。驚いたのはチャールズの方だ。衆目の手前、態度には出さずに手を滑らせる。友人同士で触れ合ってもおかしくないような接触だ。だが、次の瞬間チャールズを射抜いたエリックの目には戸惑いが色濃く浮かんでいた。あんな目に遭っても顔色一つ変えなかった彼が、チャールズに触れられただけで困惑している。その事実に、何かが満たされるのを感じた。その感情は名前を付けてはいけない何かだった。
 衝動に突き動かされるままに彼の頬に触れそうになった手は、我に返り寸でのところで抑えた。彼はこんな接触を望んでいない。彼が拒絶しないのは目的のためであって、チャールズを受け入れている訳ではない。馬鹿な勘違いだ。離した手を見る目が物欲しげに見えるのも全て気のせいだ。読めば全てがわかる。だが彼を読まないと決めたのだ。
「ただいま棄権の連絡が入りました! 現在500万ドル! 他に入札はありませんか?」
 会場は静かだった。それを見渡して、司会が木槌を鳴らした。
「落札おめでとうございます!」
「チャールズ?」
 ハンクの声が降ってくる。彼の気持ちはテレパスでなくてもよくわかる。
「計画変更だ」
 ハンクが肩を竦める。誤解されていると感じたが、チャールズは敢えて何も言わなかった。ステージから降ろされたエリックが黒服の男に引きずられるようにしてチャールズの元に連れられる。そしてチャールズの足元に跪くよう強制した。間近で見た彼の姿は酷いものだった。ステージの上にいるときは見えなかったが雁字搦めに紐と結束バンドで縛られた両腕は赤く染まり擦れて傷になっている。足についた拘束具は黒い金属棒に固定され、足を閉じられなくすると同時に走って逃げることを困難にしていた。可哀想に。チャールズは心が痛んだ。こんな目に遭うくらいなら、もっと反対して他の方法を考えるべきだった。そう思うのに、どうしてか彼の姿を見ていると妙に胸がざわつく。認めたくなかった。認めたくなかったが、傷つき拘束された親友の姿は扇情的だった。
司会は既に終幕の挨拶を述べている。会場の注目は未だに落札されたマグニートーへと向けられているのを感じる。周囲の思考が望んでもいないのに流れ込んでくる。恐らく今後は二度と無いだろう唯一無二の強力なミュータントを手に入れ損ねて嫉妬を抱く者、一件温厚そうな車椅子の男が買い取った事を面白くないと感じる者。彼らの脳内でチャールズが親友を暴き屈服させる様子が繰り広げられるのを見てしまい、チャールズは強烈な不快感を感じた。エリックとはそんな仲ではない、と言えないところが後ろ暗い気持ちの原因の一つでもあった。だが少なくとも対等だった。そこまで歪んだ形ではない。
チャールズが口枷を外そうと手を伸ばすと、エリックと目が合った。その目がよりによってハンクと同じ目をしていたので今度こそチャールズは我慢できなくなって反論した。
「違う、レイブンと話した末の計画変更だ」
 ハンクはチャールズとエリックの間で視線を行き来させた。
「あなたがエリックを落札してどうするの」
「ハンク、これでうまくいく。本当だよ」
 二人して酷いものだ。この顛末はチャールズがうっかり感情に突き動かされた結果だと思っている。決してそんな事はないのに。口枷の紐に手をかけると、首が動いて振り払われる。
「どうしたんだい」
 周囲の注目を浴びている事を考えて小さく囁く。
『この上俺にお前を罵倒する真似をさせる気か』
 脳内に流れこむエリックの声は酷く落ち着いていた。冗談めいた響きさえ含まれている。目の前の無残な格好の彼の思考とは思えないほどに、研ぎ澄まされていた。彼は何とも思っていないのだ。これほどまでにチャールズの心は搔き乱されたというのに。
「エリック、すまないけどもう少しそのままでいてくれ」
 情けないと思った。だが同時に、感情を切り離すのが上手すぎる彼の事を悲しく思う。彼が上手くなったは、その必要があったからだ。やがてスーツの男が、裏口から現れチャールズらの前で深々と礼をした。
「本日は御落札ありがとうございます。取引の詳細についてお話がありますのでどうかこちらで」
「では僕が代わりに行きます」
「いいえ、どうか落札者ご本人様もおいでください」
 ハンクと目配せを交わす。テレパスで伝える必要もなかった。なにせ彼はビーストで、その名に違わぬ優れた勘の持ち主でもあった。
 三人は来客室らしき一室に案内された。部屋の中にいたのは、オークションの管理人やスタッフではない。つい先ほどチャールズと競り争った男たちが待ち構えていた。背後で扉が閉まると同時に空気が張り詰めた。今にも銃を持ち出してきそうな緊迫感があった。三人を案内した男は、慇懃な仕草でもう一度礼をした。
「驚かせてしまってすみません。ですが、取引のお話というのは本当です」
チャールズは部屋を見渡した。彼らの中の一人と視線が交わる。いかつい顔のスーツの男だった。男はチャールズを見ると、僅かに首を傾げた。その黒色の虹彩が一瞬美しい金色に色を変える。
「こんな手は使いたくなかったのですが、我々の取引相手がとても強情でして。どうしてもそのミュータントが欲しいと言うのです」
「それは残念です。ですが我々が落札しました。彼は私のです」
 チャールズは敢えて挑発的に微笑みかけた。友の足へと繋がる鎖を見せつけるように持ち上げる。彼らの視線はチャールズの後ろに立つエリックへと向けられた。
「ええ、存じております。ですからお願いするためにここにお招きしたのです」
「私を脅すつもりですか? お断りします」
 上流階級の使う発音ではっきりと拒絶を口にすると、彼らの間に苛立ちと困惑が生まれるのが読み取れた。車椅子の男とその介助人の二人くらい簡単に脅せると思っていたのだろう。
「まさか。そんな事は。面倒ごとは起こしたくありません。あなたが落札した以上の値段で買い取りましょう。それでいかがでしょうか?」
 望んでいた言葉を引き出せた事にチャールズは内心拳を握って、ハンクを振り返った。彼は器用に片眉を上げて賞賛の意を伝えてくる。それに満足を覚えて、チャールズは鷹揚に頷いた。
「いいでしょう。ですがあなた方に用意できるとは思いません」
 エリックの視線を感じる。さりげなく見上げると、さっさと進めろと言いたげな目と目が合った。彼の苛立ちも尤もだ。チャールズだってこんなまどろっこしい事はしたくない。だが、彼らに不審がられる事は避けたいし、記憶の改竄は出来る限り最後の手段として取っておきたい。スーツの男はチャールズの前で小切手を取り出した。
「お好きな額をおっしゃってください」
 チャールズは考える素振りをした。考える素振りをしながらこめかみに指を当てる。彼らの想定内で、かといって不自然でない数字を読み取る。
「650」
「……わかりました、いいでしょう」
 紙切れを手渡される。そこには捺印と署名とともに差額が書き込まれていた。少なくともチャールズを騙すつもりはないらしい。同時に手を差し出される。スーツの男の視線の先にあるはチャールズの手の中の鎖だった。チャールズは手にした小切手とエリックを交互に見た。とんでもない構図だった。背徳感に息が詰まりそうだ。チャールズは鎖を手渡した。それが同意の合図だった。たった今チャールズは親友を売ったのだ。
『エリック』
 咄嗟にテレパスで呼びかければ、鎖を引かれ歩き出した友人の足が止まる。どうしても確認しておかなければいけないことがあった。これから彼がどんな目に遭うかなど、チャールズには想像もできない。だが、たった一つの事実があれば安心できる。
『その装置、偽物なんだよね?』
 エリックは何も返してこなかった。ただその顔に僅かな疑問の表情を浮かべただけだ。それが何よりもの雄弁な答えだった。


「どうしよう、ハンク! エリックが大変だ!」
 会場を出たチャールズは叫んだ。騒ぐチャールズに構わず車椅子を押すハンクの足は止まらない。
「え、なに? これ以上に大変な事が?」
「あの装置本物だったんだ、エリックは今能力が使えない!」
「レイブンがいるよ」
「そうだけど!」
 もし万が一の事があったらどうする。たとえ能力が使えなくても彼はうまく立ち振る舞うだろう。理解していたが、彼の命が危険に晒されたらと思うとチャールズは気が気でない。彼の命が危険に晒されているのはほぼ常の事であるが、そんな事はチャールズにとって重要でない。
 突然近くで破裂音がした。驚きに固まる二人の前にあの蒼い肌の青年が現れる。
「あ、あの。レイブンに頼まれて。セレブロで援護してほしいって。僕に掴まって」
 チャールズとハンクが学園に戻った頃には二日が経過していた。車と飛行機とテレポーターを介した移動はお世辞にも快適な旅とは言い難かった。チャールズは全身の疲れを感じながら、セレブロへと真っ直ぐ向かった。既に月が高く昇る夜だった。増幅されたテレパス能力で、レイブンとエリックの行方を探る。彼らは国外にいた。真っ先に特定できたのはレイブンだった。彼女は最後に見た時とは別人の細身の男性の姿で屋敷の門の警備に当たっていた。
『チャールズ?』
「ああ、僕だ。今どうなってる?」
『順調とは言い難いわ。まだ彼女の兄は見つけられないの。多分、エリックがいる場所の近くにいるんだと思うんだけど、簡単には近付けない』
「エリックは今どこに?」
『多分、地下だと思う』
 レイブンの声が沈む。チャールズは不安で胸が捩れる心地がした。一体彼が地下でどんな目に遭わされているのか。考えたくもなかった。
『あなたみたいな能力に対策してるって言ってた。だから見つけるのに苦労するかも』
「わかった、後でまた連絡するよ」
 テレパスの干渉を切って、チャールズはセレブロを一度膝の上に置いた。深呼吸する。落ち着く必要があった。もしかすると、今から目にする光景はチャールズを深く傷つけるかもしれない。あの時鎖を手放した事への後悔ばかりが押し寄せて来る。他の方法を考えれば良かった。だが考えてももう手遅れだ。もう二日が経っている。
 覚悟を決めてセレブロを起動する。レイブンが立っている座標よりさらに下へと探っていく。何かに邪魔されているような感覚がある。見える全てが不明瞭だった。
「ハンク、出力をあげてくれ。……もっとだ」
 ぼんやりとしたヴィジョンに色が乗り、輪郭が見え始める。誰かが何かを話している声が聞こえた。エリックの声だ。内容はわからない。声を頼りに捜索する座標を狭めていく。ようやく見つけた。エリックの視界が朧気に見える。地面が垂直に走っている。彼はどこかに横たわっているようだった。さっぱり状況がわからない。エリックの側には誰かがいるようだった。そして例によってその部屋にも警備員が控えていた。チャールズは警備員の意識に潜り込んだ。
「だから言っているだろう、俺の目的はそうじゃない」
 シルクのような滑らかな声音は確かにエリックのものだ。チャールズは部屋を見渡した。そこは地下牢などではなくごく普通の部屋だった。いや普通というのは語弊がある。大理石の床にペルシャ絨毯を敷き詰め、ロココ調細工の机とアンティークチェア、そして革ソファを配置した部屋を普通とは言わないだろう。そして目的の人物、エリックはというとソファの上で足を組んで寝そべっていた。最後に見た時とは打って変わってどこにも拘束具はない。服装も彼によく似合う黒のシルクのシャツだ。一目見ただけでそれが有名メーカーのブランドものであることがわかった。おまけに片手で揺らしているのは並々と注がれたシャンパングラスではないか。チャールズは驚きの余り時間が止まったような気がした。一体これはどういうことだ。
「お前は非常に幸運な人間だ。そして俺も。俺がお前に感謝していないと言っては嘘になる。お前は本当に良い“飼い主”だよ」
 エリックの声は上機嫌な時のものだった。グラスを傾けて、白い喉を上下させる。その喉には最後に見た時と同じ首輪が嵌められている。だがそれすらも彼の優美さを損ねてはいなかった。アッシュグレーの瞳で見据える先は壮年の男性だ。恐らくはこの屋敷の主人であり、今回の救出目標のミュータントの所有者だった。
「お前のためなら少なからず力を使ってやってもいい」
「魅力的な提案だ。だが……」
「俺が怖いか? 怖がる必要は無い。俺は約束は守るさ」
 甘く囁く声は悪魔の誘惑のようだ。するりと長い脚がソファの肘掛から絨毯へ下される。机に身を乗り出すその様は、獲物を狙うしなやかな肉食獣の動きだった。
「お前と俺がいれば出来ないことは無い」
 何だその台詞は。いつか、チャールズがエリックに向けてかけた言葉と寸分違わず同じではないか。
「簡単だとお前は知っている筈だ」
 エリックの指先が自らの胸元を這いあがり、艶めかしい動きでその首の装置をなぞった。屋敷の主は険しい顔で首を振って立ち上がった。チャールズの隣を通り過ぎ部屋を出る。扉が閉まったのを確認するやいなや、チャールズは声を上げていた。
「エリック!」
 つまらなさそうに天井を見上げていたエリックの首が動いて、チャールズの方を──正確には警備員の男の方を向いた。
「チャールズか、遅かったな」
「今の話はなんだ?」
 詰め寄るチャールズに、エリックは肩を竦めた。
「聞いていたのか」
「君がどんな目に遭ってるかとこの二日ずっと心配してたのに」
「一体お前はどんな想像をしていたんだ?」
 灰青の瞳が光って、彼の薄い唇が笑みを浮かべる。
「俺が痛めつけられていなくて残念か?」
「違う! 違う、そんな意味じゃ決して」
 エリックは喉を鳴らして、グラスの中身を一気に煽った。そして歌うように囁いた。
「チャールズ。チャールズ、俺は今能力が使えない。丸腰も同然だ。そんな俺が平気でいられたのは何故だと思う?」
 その答えは聞きたかったが、同時に耳を塞いでしまいたい衝動に駆られた。
「お前がいるからだよ」
「……口がうまくなったな、エリック」
 悪態をつかなければ、動揺を悟られてしまいそうだった。エリックの言葉が嘘でないことも知っている。
「お陰様でな。これの鍵を入手してこい。このままでは何も出来ん」
 長い指先が首の装置を叩いた。
「自分で何とか出来ないのか」
「出来れば良かったんだがな。この部屋から出られない」
「どういうことだ?」
 彼は忌々しげに出口の天井を示してみせる。そこには警報装置のような黒い丸い機械が取り付けられていた。
「これに反応する」
「……君を磁気装置で閉じ込めるとは良い趣味だ」
「だろう?」
 エリックがシニカルに笑う。だが彼の心中を思うと笑い返すことなど出来なかった。勘違いも甚だしかった。初めは彼の恰好と様子で惑わされたが、紛れもなく彼は監禁されている。手足の自由こそ奪われていないが、この部屋が大きな檻になっているというだけだ。
「待ってて。すぐに探すから」
「明日、ここを発つらしい。そうなると俺も行かないといけない」
 エリックはチャールズを見詰めた。
「チャールズ、お前を信じてる」


(8/11より)

アメコミ創作物一覧
by
  • Comment:0

ミュータントオークション①

チャエリ。ミュータントのオークションに磁界王が出品される話。
FP後、アポカリには続かず隠居しなかった磁界王がテロリストとして活動し続けている時間軸です。捏造一杯。







「ミュータント闇オークション!?」
 口にするのも悍ましい単語を叫んだのは、車椅子を支えている後ろのハンクだった。午前の授業が終わったばかりの平和なランチタイムにはあまりにも不釣り合いな響きだ。チャールズは眉を寄せて、情報源となった二人の来客を見据えた。ここは恵まれし子らの学園。エグゼビア学園の学長室だ。この部屋を訪れる者は多々いるが、今回の組み合わせは珍しい。大統領を狙った指名手配犯とその命を救った英雄。彼らがチャールズにコンタクトを取ってきた日には悪夢に魘されたくらいだ。確かに会いたいと願い続けてきた。だがいざ目の前にすると胃が痛い。それに唐突にもほどがある。そして、きちんとアポイントメントを取って予告通りの時間に姿を現した二人はそれ以上に驚くべき話を披露した。
「チャールズ、ここでは考えられない話かもしれないけど。この学園の外じゃ珍しい事じゃないの。今もミュータントは見世物扱いよ」
 だからなのだろうか。淡々と感情を切り離したような、誰かに似てしまった話し方をする彼女は青い肌を肌色に隠していた。
「……それはどこで行われたんだい」
「国内だ。お前に協力する気があるなら明かそう」
 この部屋に来て初めて口を開いた旧友の顔をまじまじと見てしまったのは無理もないことだ。彼は何事も無かったかのように、最後に別れたときのままの姿で立っていた。五体満足で目立った傷もない。そのことにきっと誰よりも安堵して、腹を立てていたのはチャールズだった。チャールズがどんな思いでいたか、彼は少しも顧みはしないのだろう。
「僕たちに何を協力してほしいっていうんだい」
 来訪者二人が顔を見合わせる。そしてレイブンが携帯を取り出して何かを言った。次の瞬間爆発音がして、彼らの後ろに霧が現れた。その中に青い肌の青年が立っている。彼女を彷彿とする、鮮やかな藍色だ。
「彼女を保護してほしいの。彼女も競売に賭けられていた。帰るところもない」
 青い悪魔のような外見のミュータントに気を取られていたからだろうか、青年が誰かと手をつないでいる事に遅れて気付く。そこには一人の少女がいた。見た目にはミュータントとわかるような点はない。年齢は10に満たないくらいだろうか。こんな少女が売買されているという事実に沸々と怒りが沸き上がった。
「ああ、勿論。そんなことなら」
 チャールズは頷いた。そのための学園だ。だが二人の表情は固いまま、微動だにしない。これだけではなく、何か他に用があるのだ。チャールズは後ろの優秀な研究者を振り返った。
「ハンク、彼女を頼む」
 チャールズの言葉にハンクは少女の前で屈み手を差し出した。レイブンが奇妙な表情で首を傾げるのが見えた。少女の手を取って部屋を出る直前に、ハンクは何か言いたげにチャールズへと目を遣ったが結局何も言わずに扉が閉まった。二人が目配せをし合う。口火を切ったのはレイブンだった。
「彼女には兄がいたの。エリックが会場を破壊してくれたけど、どこにもいなかった。遅すぎたのよ。買い取ったのが誰かは目星はついてる。だけど襲撃以来用心深くて姿を現さない」
「僕に見つけてほしいってこと?」
 だとすると、この学園に来たのは正しい。人捜しにおいてチャールズより最適な人はいない。そう合点したが、二人は複雑な表情をしたままだった。
「可能ならね。でも出来ないと思うわ。一人じゃないの。それに場所を特定しても何も解決できない。どこか別の場所に閉じ込められてるらしいから」
 話がつかめない。チャールズは首を傾げた。
「そんな事をしなくても、彼女の兄を直接探したらいいんじゃないかい」
「彼女も彼女の兄も同じ能力で、見た目を変える能力よ。私みたいに本当に変える訳じゃない。見ている人の先入観によって変わるの。先入観が無い時は視えない。彼女を現す言葉を聞いた人に、その言葉で連想される姿で現れるの。つまりは鏡みたいに。きっとあなたには彼女が少女に見えているんじゃないかしら」
 呆然とレイブンを見ると、彼女は初めて笑った。
「私には私より背の高い美女に見えるわ。オークション会場ではそう紹介されたから」
 ね、と同意を求めるようにレイブンが青い肌の青年を振り返る。青年はこくこくと頷いた。
「驚いたな。なら彼女の本当の姿は誰も知らないということかい」
 確かに見た目が分からなければ、セレブロで探すのはどれだけ時間がかかるかわからない。全世界のミュータントにコンタクトを取っていかなければならないのだ。それを好ましく思わないミュータントも多い筈だ。チャールズはようやく二人が不可能だと結論付けた理由を理解した。
「彼女の兄もね。そもそも兄かどうかもわからないわ。それで……、前回私がオークションに潜入したの。でも目的の人物は来なかった。ミュータントってだけでは来ないみたいなの、彼の食指が動く特別なミュータントじゃないと。見た目が特殊だったり、有名だったり……」
 雲行きが怪しい。察したチャールズに、金髪の美女の姿のレイブンが微笑みかける。
「私が最適よ」
「冗談じゃない! 競売にかけられる意味を分かっているのか?」
 チャールズは思わず声を荒げた。絶対にそれだけは許す訳には行かない。潜入任務だとわかっていても受け入れられないものがある。彼らがミュータントを買ってすることは、いくら世間知らずだと二人に笑われているチャールズにでも想像がつく。妹であるレイブンをそんな目に晒す事は許容できなかった。
「当たり前じゃない。あなたと違って直接見てきたのよ」
「エリック! 君は何を考えている!」
 にべもない言葉に反論できない。代わりに怒りの矛先は、静観している旧友へと向いた。吠え掛かるとエリックは肩を竦めた。
「俺は反対した」
 チャールズ相手の時は丸め込まれた試しなど無いというのに、何という事だ。なに簡単に説得されている。チャールズは額を揉んだ。テレパスでハンクの名前を叫ぶ。ドタドタと階段を上る大きな足音がして、青い獣姿の男が扉を蹴り破った。
「チャールズ!」
 エリックに向かって飛び掛かりそうな勢いで入ってきたハンクは、寸前で動きを止める。次の瞬間きょとんと部屋の中を見回した。車椅子に座ったままのチャールズを説明を求めるように見る。エリックに襲撃されたとでも思ったらしい。
「大丈夫だ。襲われたわけじゃない……、いや事態はもっと悪い」
「大袈裟よ、チャールズ」
「ハンク、何か言ってやってくれ! レイブンは自分を囮に使う気だ」
「え……、それはやめといた方がいいんじゃ」
 さっきまでの威勢はどこに行ったのか、もごもごと弱弱しく反論する。青色の毛皮が徐々に薄れていく。
「レイブンが囮になるくらいなら……僕が……」
 思いつめたような顔で提案するハンクの心境は察するに余りある。外見に拘る彼が見世物になるなど耐え難い事だろう。だがそんなハンクの気持ちなど知った事ではないとばかりにレイブンは一刀両断した。
「あなたじゃダメ。もっと誰でも知ってるくらい有名じゃないと」
 容赦がない。
「それにあなたには向いてないと思うの。あなたが檻に入れられるところを見たくないわ」
「それは僕だって……」
 ハンクは青褪めた顔で首を振った。
「どうしてもダメだって言うの? チャールズ」
「当たり前だろう!」
 ハンクの様子に心が痛んだのだろうか。譲歩するような兆しを見せたレイブンに、チャールズは何度も頷いた。レイブンの目が輝く。チャールズは突然不穏な心地がした。
「じゃあ、あなたが囮になって」
「なんだって?」
「チャールズ、あなたなら問題ないわ。その能力なら彼らも欲しがる筈。私がダメなんでしょ?」
 恐ろしく早い掌返しだった。なにが起きた。唖然としてハンクの方を見る。可哀想なハンクもぽかんとしていた。
「レイブン、それは俺が許さない」
 割って入ったのはエリックだった。彼とは何度も口論したが、この時ほど彼の発言が有難いと感じたことは無い。
「チャールズを囮に使うというなら俺は協力しないぞ」
「あら、エリック。私の時よりもチャールズの方が反対するのね」
 エリックが歯を見せて笑う。
「お前は俺が止めても一人でするだろう」
「あなたって反対してばかりね。ならあなたが囮をしてくれる?」
「いいだろう」
 チャールズは耳を疑った。今なんと?
「決まりね。どうして気付かなかったのかしら。あなたの方が確実だわ。なにせ全国中継で大演説をしてるし、会場を破壊したこともある。客寄せにはぴったり」
「だろうな」
「待って、レイブン。エリックを囮にだって? 危険すぎないかい」
 彼は10年近く地下に閉じ込められていた。無実の罪でだ。非公式に行われた裁判がどのようなものだったのか、今のチャールズは知っている。彼を恐れ恨む者がどれだけいるかなど考えるのも恐ろしい。そんな彼らの手に一時的とはいえ、エリックを渡す事になるなど。
 やっとの事で言葉にすると、二人はシンクロした動きでチャールズの方を振り向いた。
「だから、お前が必要なんだ」
「協力してくれるわよね、チャールズ」
 妙に息の合った二人の様子にチャールズは悟った。初めからこのつもりだったのだと。そしてまんまと二人の芝居に振り回されたのだ。


 会場は始まる前から盛況していた。薄暗い照明の下で、帽子を目深に被って車椅子に乗ったチャールズに注意を払う者はいなかった。いたとしてもほんの少し記憶を書き換えるだけでいい。T字型のステージを囲むように丸テーブルが並び、きわどい衣装の女性がボトルとグラスを持ってその間を行き来している。チャールズは渡されたグラスには手をつけず、ステージの上を睨み続けていた。レイブンは既に潜入しクルーと入れ替わっている。あの青い肌のテレポーターはその容姿故にここには来れないらしいが、何かあった時のために近くに潜んでいるという。ハンクは同じく顔の判別しづらい恰好をして側にいる。
 周囲にいる人間は皆ミュータントを買いに来た連中だ。その中に、ミュータントの未来の為にと言葉を交わした事のある政治家がいるのを見つけて、チャールズは気分が悪くなっていくのを感じた。彼らが本心で話している訳ではないのは知っていた。だが、チャールズはチャールズなりの誠意でもってその深層を読むことをしなかったのだ。その結果がこれだ。どこまでいっても彼らの目にはフリークとして映っている。彼らとの対話は何の意味も無かったのだろうか。無力感に苛まれる。
 一人の正装の男が壇上で深くお辞儀をした。
「ようこそ、おいで下さいました! 遠路はるばるここに来られた方も多いでしょう。先月、不幸にも我々の欧州の支部が襲撃を受けたのは、皆さまもご存知のはず。憤りを覚えた方も多いでしょう。そんな皆様にとっておきの朗報が最後にあります。どうか最後まで席を立たずお楽しみください。それでは第13回マーケットforミュータント、スタート!」
 会場が拍手で沸く。顔を上げるとハンクと目が合う。視線だけで人を殺せそうな険しい顔をしていた。
「ハンク」
「大丈夫、ビーストになったりしないよ」
 そんな事を心配してる訳じゃないと言いたかった。心配なのは彼の心の方だ。
「では、最初はこちらから!」
 マイクを持った司会の声を皮切りに、深紅の舞台袖からスーツの男が出てくる。その後ろを歩いているのは少年だった。年は15程だろうか。褐色の肌に、黒い髪をしていた。ただ一つミュータントであることを示しているのは、その髪の間から覗く山羊のような形状の角だ。だが、山羊の物とは違い黒い鱗に覆われているのが見えた。少年は鎖でつながれている訳でもないのに、大人しく連れてきた男の後ろに立っている。男に背中を押されると、舞台の前へと歩き出す。
「愛玩用に最適! 危険な能力は少しもありません。切り落として部屋に飾るのもいいでしょう! 性格も大人しく__」
 つらつらと述べる台詞は途中から頭に入ってこなかった。吐き気がして、思わず口を押える。肩に何かが触れるのを感じた。ハンクの手だ。手を伸ばすと、驚くほど強い力で握り返される。平静を装おうと必死な彼の感情が流れ込んできて、反対にチャールズは頭から冷や水を浴びせられたように冷静になるのを感じた。
「10万ドルよりスタートです!」
 上がっていく数字を聞きながら、チャールズは壇上の少年の意識を読んだ。少年には家族がいた。彼の姿に家族は怯えたが、それでも隠そうと手を尽くしていた。だがある日、ミュータントの証の角を見られてしまい誰かに通報された。両親が金貨を受け取る様子が彼の記憶にはっきりと刻まれていた。ここに来た理由を忘れてはいけないとチャールズは考えを振り払った。今すぐテレパスで声をかけてやりたいがそれでは今までの努力が水の泡になる。
 エリックを、つまりはマグニートーをここに出品するにあたって入念な準備が必要だった。当然だ。彼はミュータントの過激派として知られていて、そして実際それを行動で示した。チャールズは知らなかったが、以前この売買組織の取引現場を破壊しつくしたのだという。それを聞いた時チャールズは、呼んでくれたら良かったのにと彼の暴力的な解決策に嫌味を言ってみたが、彼はどこ吹く風で今度は見せてやるなどと返してくる始末だった。ともかくそれ故、彼らのマグニートーに対する警戒は並々ならぬものだ。潜入だと知られないようにしなければならない。情報の操作や下準備はレイブンとチャールズが殆どを担当した。彼らは、別組織を襲撃したマグニートーが下手を打って捕縛されたのだと嘘の情報を信じている。一体どう下手を打てば彼がこんな裏組織などに捕まるのか、チャールズならば到底信じられないようなシナリオであるが、彼らは疑わなかった。彼らは何一つ知らないのだ。彼が、チャールズの親友が強敵たる理由はその稀有な磁界の支配能力ではない。彼の精神とその頭脳こそが彼を最も恐るべき宿敵たらしめている。
 やがて数字の上昇が止まり、オークション・ハンマーの音が鳴り響く。少年が舞台から降ろされて、最も高値をつけた落札者の隣に跪いた。
 チャールズはこめかみに指を当てて、レイブンを呼んだ。
『どうしたの、チャールズ』
『エリックは?』
『予定通りよ』
『エリックもこんな目に?』
『……かもしれないし、そうじゃないかもしれない』
 平静でいられる自信がない。そう思い問いかけると、奇妙な沈黙の後に不明瞭な答えが返ってくる。それを不審に思う。だが追究する暇は与えられなかった。
『悪いけど、今大変なところなの。集中させて』
 チャールズはテレパスの干渉を切った。気が気でない。そうしている間にも次々と壇上にミュータントが上げられ、売られていった。それが何度続いただろう。多くのミュータントは子供で、そして見た目にもミュータント因子が色濃く発現していた。能力は僅かなもので、あっても壁に張り付いたりといった人間にとって危険性の少ないものばかりだった。
「それでは最後に参ります!! 本日の大目玉! 最大のハイライトです。この名前でご存知ない方はいらっしゃらないでしょう、『磁界の王、マグニートー』!」
 どっと会場が沸いた。何人もの黒服の男が舞台袖から出てくる。今までの様子とはまるで違う。彼らは紐で何かを引いていた。もしかして紐で縛ったというのか。チャールズの大事な親友を。チャールズは苛立った。なんて野蛮な事をする。
 だがチャールズの想像に反して、紐が結ばれた先は荷車だった。車輪が進むにつれて舞台袖からそれが現れる。荷車に乗せられていたのは巨大な水槽だった。分厚い硝子で六面を構成した水槽の中に、彼はいた。チャールズは自分でも驚くほど動揺していることに気付いた。彼は赤と黒を基調とした、ホワイトハウスを襲撃した時の衣装に酷似した恰好に身を包んでいた。マグニートーの衣装だ。水槽の中で、ぐしゃぐしゃになったマントの上に身を横たえ彼は意識を失っていた。
 もしも足が不自由でなければ思わず立ち上がっていたことだろう。チャールズはただ茫然と硝子の向こうの友の姿を見詰めた。かつてチャールズと対峙した時のようなヘルメットはなく、短く刈られた髪が無防備に晒されている。
「我々の支部を破壊した憎き仇をようやく捕らえる事に成功しました! 所詮はミュータント。我こそは、という方はご入札お願いします。落札後は煮るも焼くもご自由に!」
 彼が水槽に入れられているのは、彼を閉じ込める手段がそれ以外用意できなかったからだ。それはよく理解していたが、いざ硝子の中にまるで蝶の標本のように捕らわれた彼を目の前にすると胸がざわめいた。あたかも人間とは思っていない扱いだ。残酷な扱いに胸が痛むのに、彼から目を離せなかった。
「勿論、先ほどまでのように危険性が無いとは言えません。ですがご安心を」
 司会が手を振ると、黒服の男たちが動いて水槽の上面を構成している硝子板を持ち上げて取り外した。男の手が水槽へ突っ込まれ、彼の襟首を掴むと乱暴に引き上げる。意識を失ったままの彼はされるがままに白い喉を晒した。その首元に何かが取り付けられていた。黒い装置だ。首輪の形をしたそれは彼の首に隙間なく巻き付いていた。
「これがあれば、ミュータント能力は使用できません! 勿論ご購入後に外すこともできますが、命が惜しければやめておいた方がいいでしょう。外した場合の責任は当方一切負う事ができません。またこちらの装置は開始価格に含まれませんのでご了承下さい。それでは50万ドルよりスタート!」
 木槌の音が開始の合図だった。会場全体が震えるようだった。みるみる数字が上がっていく。チャールズは意識の無いまま競売にかけられている友を見詰めた。あの装置が本物かどうかチャールズには分からない。だが、きっとレイブンがいるのだから偽物とすり替えている筈だ。そうであってくれ。この異様な状況に嫌悪感とそしてそれ以上の自分でも正体の分からない焦燥感を感じていた。
「本物かどうかそれじゃ分からない! 起こせ!」
「そうだそうだ!」
「殴れ! 殴れ!」
 数字の中に野次が飛んだ。それを発端に、会場は罵声に包まれた。困惑したような顔をして司会が黒服の男に合図を送る。起きてくれ、と願ったチャールズの声が届いたかのように黒服の男が揺さぶっただけで、エリックは目を醒ました。どこか朦朧とした目で地面を見て、照明に眩しそうに目を細める。そしてグレーの瞳が動き周囲を見回し、ようやく自身の置かれた状況を理解したように見開かれた。
「貴様ら、何を__」
 地を這うような友の声は途中で遮られた。男がその口に布を詰め込んだのだ。そのまま紐で押さえて後頭部で固定するのがチャールズからもはっきり見えた。あんまりな扱いだ。口枷だなんて。怒りが沸き上がるが、チャールズに出来る事はなかった。
まるで目が覚めたら突然ここにいたかのような反応だった。彼がこんなに演技が上手だとは思わなかった。全部演技の筈だ。そう信じたい。レイブンに確認したいが邪魔だと思われるだけだろう。
「ご確認いただけたでしょうか?」
 会場は鎮まらなかった。だが数字の上がる速度は明らかに増した。黒服の男に押さえつけられたままエリックは嫌悪と侮蔑の混じった目で観客を見回す。唯一自由の効く首がぐるりと回ってチャールズの方を見た。目が合うと思った。ドキリとする。どんな目で親友を見返せばいいのかわからなかった。そして今の顔を見られたくなかった。そんな思いと裏腹に視線を逸らせずにいると、エリックは次の瞬間にはもう別の場所を見ていた。
『来たわ』
 レイブンの声がした。正確にはチャールズに向けられた強い思念を読み取っただけだが。
『え?』
『ターゲットかもしれない』
 その言葉が聞こえたと同時に、会場の後ろで扉が開く微かな音がした。誰も気に止めていなかった。この喧噪の中でチャールズが聞き取れたのが奇跡に近い。数人が音もなく会場に入ってくるのが分かった。彼らの意識をそっと読む。
『いや、違う。彼らは雇われてるだけみたいだ。引き渡す時間と場所しか知らない』
『厄介ね』
 警戒心が強いというのは事実のようだ。
『チャールズ、値段を吊り上げて』
 チャールズは耳を疑った。今とんでもない言葉が聞こえた気がした。
『レイブン?』
『あなたが入札するの。値段が不当に吊り上がれば彼らも確認を取らなければいけなくなるわ。それを読むの、出来るでしょ』
 一理はあるが、それは他の方法でも代用できないだろうか。チャールズは逡巡した。何より親友を競り落とそうとする自分というのが、受け入れられない。もっというとそれを彼に見られるのが非常に気まずい。例えばこの中にいる誰かを操作すれば全ては……。
『照れてる場合じゃないわよ』
 いつからレイブンはテレパスになったのか。チャールズは唇を噛んだ。その通りだ。こんな目にまで遭っているエリックを前に些細な事ではないか。チャールズは手を挙げた。
「100」
「チャールズ?」
 呆気にとられた声が隣から降ってくる。チャールズはハンクへ目を遣る。完全に勘違いしている目がチャールズを見下ろしていた。勘違いとはつまり、見ていられなくなり勢い余って入札してしまったのではないかという懸念の滲んだ目だ。実に不本意かつ失礼な勘違いだ。こんなに理性的に考えた末だというのに。
「出ました! いきなり100! これを超える方はいませんか!」
 興奮したように司会が叫ぶ。
「110」
「115」
「200」
 声は後ろからだった。周囲が静まりかえる。チャールズは振り返った。さっき入ってきた面々だ。そして恐らくはあの少女の兄を競り落とした人物の手先なのだろう。
「おっと! 200! 200とは……さすがはミュータントの王といったところでしょうか」
 かかった。あとはレイブンの狙い通りに値段を吊り上げるだけだ。チャールズは再び手を挙げた。
「220」
 そこで初めてエリックはチャールズを見た。怪訝そうに眉を寄せていた。まるでチャールズが酔って悪ふざけをしているのを見咎めた時のような顔だ。馬鹿な事をするな、と彼の柔らかい声が聞こえた気がした。ひりひりと胸が妙な感じに疼いて痛む。だが嫌な感覚ではなかった。こんな顔を見たのは何年ぶりだろう。最後に彼と遅くまで飲み交わしたのはいつだったか。そんなことを唐突に思った。
「250」
 チャールズには、彼らの予算が把握できていた。だから一気に吊り上げる事も可能だ。だが彼らに怪訝に思われないようにしなければならない。
「250! 250です、いかがでしょうか?」
 司会は声を張り上げていたが、その目は真っ直ぐにチャールズの方を見ていた。彼らと張り合うのはチャールズだけだと確信しているのだ。チャールズは自然に見えるよう悩む素振りを見せた。だがそれが良くなかった。司会は何かを心得たように、再び何かを黒服の男に伝える。
 黒服の男はナイフを取り出した。チャールズはぎょっとした。ナイフを観客に見せつけるように頭上に掲げた後に、エリックの身体に刃先を這わせる。愚かな事を。チャールズはぞわぞわと寒気がするのを感じた。エリックの神経を逆撫でする彼らにいつその刃先が向かうのか気が気でなかった。一人のミュータントのことなど最早どうでもいいと、怒りに駆られたエリックがこの会場を破壊し始めるかもしれないのだ。だがナイフが彼らに襲い掛かる事はついぞなかった。何本もの腕が親友を押さえつけ、その衣装を引き裂いていく。
 あの衣装は偽物だ。チャールズにはすぐにわかった。人間の力で、そしてただのナイフで破れるような脆い素材で出来た衣装ならば戦闘服にする必要は無い。わざわざ用意したのだ。恐らくは彼らが。酷く悪趣味だった。嘔気がしたが、それでも吸い付けられるように視線を離せなかった。チャールズの目の前でマグニートーの衣装が破られていく。
「300」
 もう十分だと伝えるために値段を吊り上げる。はやく、予算が尽きるまで上げなければ。だが、チャールズの声でエリックの衣装を破る男の手は止まることなく、更に対抗する声も上がらなかった。チャールズは後ろを振り返った。彼等は面白い見物でも見ているかのようにじっと沈黙を守っていた。司会は既にチャールズを見ていなかった。その視線の先には見物を楽しむ彼らが映っている。
 何が始まったのかチャールズには理解できなかった。こんなことは先ほどまでの競りでは行われなかった。インナーを残して衣装を剥がれたエリックは殺意の篭った目で観客席の後ろを、恐らくは彼らを睨んでいた。彼が激怒に駆られた時の目をこんな近くで見た事は殆どなかった。彼がこんな目をする多くの場合次の瞬間か殆ど同時に彼は攻撃に転じている。普段冷涼な光を灯した灰色の瞳の奥で燦爛と輝く憎悪は息を飲む程に美しかった。
「330」
「500」
 間髪入れずにチャールズは声を上げた。会場がどよめき、上げた手に視線が集まる。悪手を打った自覚はあった。だがこれ以上親友の尊厳が踏みにじられるのは避けたかった。こんな茶番は一刻も早く終わらせたかった。入札しているせいかまるで片棒を担いでいるような気分になる。彼らの動揺が伝わってきた。彼らの予算はもう無い筈だ。これで目的は達成できた。
「チャールズ、僕達が落札したらダメなんじゃ……」
「落札するわけじゃない」
 おずおずと諫めてくるハンクにチャールズは答えた。
舞台袖から出てきた黒子が司会に何か伝えているのが見えた。
「えっと……、取引先と確認を行いたい? 今回は金額も高いので特別に認めましょう。ただし10分以内に入札が行われない場合棄権したものの見なします!」
 観客席から外へ出ていく彼らの気配がする。チャールズはこめかみに指を押し当てた。彼らの内の一人が携帯で連絡を取っている。その番号と相手の声に耳を澄ませる。澄ませていたが、視界に飛び込んできたものにチャールズの集中は乱された。
 黒服の男がエリックの身体へ手を這わせ始めたのだ。明らかに性的な意味を持った触り方だった。





アメコミ創作物一覧